あるAnonymous Coward 曰く、
コインハブを巡る1つの事件に対して最高裁判所が下した判決は無罪だった。各所で詳報されている(NHK、朝日新聞、毎日新聞、弁護士ドットコム・その1、弁護士ドットコム・その2)ところ、実際の判決文の重要箇所を引用すると
第3 当裁判所の判断
1 不正指令電磁的記録に関する罪は,電子計算機において使用者の意図に反し
て実行される不正プログラムが社会に被害を与え深刻な問題となっていることを受
け,電子計算機による情報処理のためのプログラムが,「意図に沿うべき動作をさ
せず,又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」を与えるものではない
という社会一般の信頼を保護し,ひいては電子計算機の社会的機能を保護するため
に,反意図性があり,社会的に許容し得ない不正性のある指令を与えるプログラム
の作成,提供,保管等を,一定の要件の下に処罰するものである。
このような本件規定の趣旨及び保護法益に照らせば,プログラムの反意図性及び
不正性については,次のとおり解するのが相当である。
すなわち,反意図性は,当該プログラムについて一般の使用者が認識すべき動作
と実際の動作が異なる場合に肯定されるものと解するのが相当であり,一般の使用
者が認識すべき動作の認定に当たっては,当該プログラムの動作の内容に加え,プ
ログラムに付された名称,動作に関する説明の内容,想定される当該プログラムの
利用方法等を考慮する必要がある。
また,不正性は,電子計算機による情報処理に対する社会一般の信頼を保護し,
電子計算機の社会的機能を保護するという観点から,社会的に許容し得ないプログ
ラムについて肯定されるものと解するのが相当であり,その判断に当たっては,当
該プログラムの動作の内容に加え,その動作が電子計算機の機能や電子計算機によ
る情報処理に与える影響の有無・程度,当該プログラムの利用方法等を考慮する必
要がある。
2 本件プログラムコードの動作は…(中略)…反意図性が認められる。
3 本件プログラムコードは…(中略)…不正性は認められない。
4 以上のとおり,本件プログラムコードは,反意図性は認められるが,不正性
は認められないため,不正指令電磁的記録とは認められない。
(太字はタレコミ主による)
1の規範部分は省略せずに引用したので長くなったが、2から4が本事件への当てはめ部分である。当てはめ部分は割愛したので判決文リンク先のPDFを参照されたい。
この当てはめ部分は、同種事件に対しては各個別の判断になるので、反意図性・不正性の有無に関して今回の判決とは異なる判断が下される可能性は残る。したがって、本件無罪判決を受けて同種事案もお咎めなしとするのは早計にすぎ、各自で判決の規範部分を当てはめて判断する必要があると思う。今回の最高裁判決の肝は、もちろん技術者的視点からは無罪のお墨付きが出たことが重要な意味を持つのであろうが、先例としての本判決の意義は不正指令電磁的記録に関する罪の解釈につき、2つの要件(構成要件要素)をより具体的に規範化したところに求められる。個人的には、「プログラムに付された名称」が反意図性の考慮要素として入っている点と、国が暗号資産と用語を統一したところを「仮想通貨」としている点が意外に感じた。
よくよく調べたら、法律上、仮想通貨から暗号資産に用語変更されたのが2019年5月の資金決済法と金融商品取引法の改正においてであり、本事件発生後のことであるため、本事件に関しては当時の法律上の呼称である仮想通貨をあえて使用したのかもしれない。
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